自動車の経済性を考える「燃費」や「電費」
自動車は私たちの生活に欠かせない移動手段です。自動車の燃料であるガソリンや軽油は原油から作られる石油製品で、エンジン内で燃焼され、化学反応を起こし、マフラーから排出されます。1ℓ(リットル)で何キロメートル(㎞)走行できるかを燃費といい、長く走れるほど経済性は良くなっていきます。これを燃費が良いといいます。燃費が良い車は、燃料の消費量も少なく、排気ガスも少なくなることから環境に良い車とも言えます。
近年、じわじわとその販売台数を伸ばしつつある「電気自動車」についても燃費は重要なもので、燃料は電気であることから「電費」とよびます。
電費は主に満充電での最大航続距離を表しています。1回の充電でどれくらいの距離を走れるのかという事です。
ガソリン車の燃費表示
ガソリン車は現在2種類の燃費が表示されています。例えば以下の「ダイハツ・タント」の例を見てみましょう。
ここでは、「WLTCモード」と「JC08モード」と2種類の燃費表示が書かれています。これはそれぞれどういうことなのでしょうか。簡単に言ってしまうと、WLTCは世界基準の燃費測定方法で、実燃費に近く、JC08モードは日本独自の規格で、実際の燃費より良い値が出てしまいます。
つまりWLTCの値の方が実際の燃費に近いのです。ではなぜこのように2つの表示を行っているのでしょうか。
あてにならない「JC08モード」での燃費
このモードでの測定は2011年4月より表示が義務付けられるようになりました。それ以前は1991年からの10・15モード(じゅう・じゅうごもーど)と呼ばれる更に燃費が良く見えてしまうものを利用していました。
自動車の燃費の測定は、外気温や路面状況など様々な外的要因にも左右されてしまいます。そのため、専用施設を用意して、実際の路面ではなく測定装置の上を走らせることによって、全く同じ環境を作ることで、どの自動車メーカーも同じ環境下で測定した燃費で比較することが可能です。
10・15モードでは、施設内でローラーの上に自動車を載せ、市街地を想定した運行状況を想定して、速度を一定の割合で変化させて測定していましたが、年々自動車の使用環境が変化していく中で、消費者が実査に利用した際の燃費とカタログ値の燃費との乖離が大きくなってきてしまいました。
そこで、より実際の走行に近づけるため、より厳しい条件を付けて測定したのがJC08モードとなっています。
しかしこの測定もテストコースや路上ではなく、試験場内の計測器のローラーの上で測定されたもので、ハンドル操作などは加味されていません。更に、通常車に乗ればエアコンやナビ、カーステレオなど様々な電装品を使いますが、これらは全てオフの状態で測定されますので、やはり実際の燃費からは離れた数値となってしまっています。
新燃費表示「WLTCモード」での燃費
WLTCモードは「Worldwide harmonized Light duty driving Test Cycle」を略したもので、国際基準の燃費測定方法です。より実燃費に近い値として2018年10月より採用されています。このモードでも試験場内のローラーの上で測定されていますが、より実際に近い重りを自動車に搭載し、ローラーの負荷もより大きくして実際の路面環境に合わせた形にしています。
更に表示では、「市街地モード」「郊外モード」「高速道路モード」その平均をとった「WLTCモード」の4つの状況下での燃費表示をすることで、より詳しい燃費表示を実現しています。消費者はより自分に合ったカーライフでの燃費比較ができるようになりました。
ガソリン車には上記のように2種類の表示がされている場合があります。WLTCモードは実燃費により近い状況になったといわれていますが、それでも実際の燃費よりははるかに良い数字になってしまっています。実際にWLTCモードの燃費を達成するのは本当にまれな状態で、実燃費からはまだまだ乖離があると言えます。
電気自動車での燃費表示
日本は2030年までにガソリン車の新車販売の禁止を発表しました。これにより、ますます自動車の電動化が急速に進むことになります。電気自動車(EV)はガソリンを使わずに電気で動くため、その表示は大きく異なります。
そして新しい時代の自動車だけあって、実電費とカタログ値をより近いものにした新しい規格も用意されています。
WLTCモードでの電費
WLTCモードで測定する場合の条件はガソリン車の場合と同じで、電費表示は1㎞を走行するのにどれくらいの電気量が必要かという表示と、1回の満充電でどれだけ走行できるかという2種類の表示が用意されています。
WLTCモードはガソリンの場合と同様で「市街地」「郊外」「高速道路」それらの平均の4つの値を表示します。
最も信頼性の高いEPAモード
WLTCモードの電費は国際基準ではありますが、実際には日本独自で採用するかしないかを決められるテストもあり、国土交通省はExtra-Highと呼ばれる130km/hでの試験を行っていないため、海外の電気自動車との性能比較に差が出てきてしまう場合があり、また実電費と比べると達成するのはとても難しいものです。そんな中、世界の消費者の間でも信頼度が高く、実際に自動車購入後に自身が乗って試してみても実際の値に近いものにEPAというものがあります。
EPAはアメリカ合衆国環境保護庁(U.S Enviromental Protection Agency:https://www.epa.gov/)の略で、この政府機関が定めた電費の算出方法になります。
EPAが実電費に近く、信頼できる理由
EPAが多くの消費者に支持され、業界でも最も頼りにされる実燃費として認められているのは、購入後の比較だけでなくその計測方法にあります。
そもそも電気自動車は充電器から車両に電気を充電するわけですから、この充電器に着目して計測しています。充電器には電気回路などが組み込まれていて、この回路部分でも電気を消費します。そのため充電ケーブルを伝わって電気自動車に充電されるまでの間にも電気を消費してしまいます。なのでEPAで測定する場合は車両に電気が入る直前に計測器をつけて電気の量を計測します。
また、ガソリン車はエアコンを利用する場合のコンプレッサーはエンジンで稼働しているため、この分の仕事を電気が担う事になります。電気自動車は電気が唯一のエネルギーであるため、冷暖房などの空調を利用している場合では走行距離に大きく差がでます。
そのため、走行性能の計測も多岐にわたり、またその環境もかなり細分化された形で計測・シミュレーションが行われています。加速抵抗、勾配抵抗、空気抵抗などを加味し、街乗り、山岳エリア走行、エアコン利用時走行など想定される様々な条件で計測されています。
まとめ
燃費については以前からカタログ値と実燃費の乖離が指摘されています。消費者もそれは理解しているため、他メーカーとの性能の違いを比較するためのものだけにとどまってしまっています。
しかしながら今後の地球環境を考えていくため、温室効果ガスの排出量などを評価していく為により正確な実燃費に近い値の表記が自動車の環境性能を考えるうえで非常に重要になってきます。
現在信頼性が最も高いEPAは米国で考えられたものですが、その有効性から世界標準になりつつあります。今後は2017年に欧州で導入されたRDE(Real Driving Emission)試験などを通じ、より環境性能の正確な表示が求められて生きます。