日本国内で懸念される感染症
2020年1月に日本国内でも感染が確認された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はその後の日本国内全域に感染が拡大する結果となりました。中国武漢で発生したとされるこのウイルスは、瞬く間に世界中を飲み込む感染症となりました。
日本では毎年冬季になるとインフルエンザの流行が毎年当たり前のように報告されていましたが、今年は新型コロナウイルス感染症対策によりその報告数も前年に比べて大幅に減少しています。
しかしながら、インフルエンザも時として人の命を奪う危険な感染症の1つです。日本国内で感染拡大が懸念されている感染症はまだまだ他にも沢山あり、新型コロナウイルス感染症より危険度の高いものもあります。
日本国内で感染拡大が懸念されている感染症
2014年代々木公園で発生したデング熱
2014年8月、70年ぶりに日本国内で「デング熱」の感染事例が発生しました。海外渡航歴がない埼玉県在住の10代女性がデングウイルス遺伝子陽性という結果になり、その後の調査で東京都の代々木公園で学校の課外活動中蚊に刺されたことが原因であるとわかりました。最終的に約160名の感染者が確認され、代々木公園やその周辺への訪問歴もない患者も報告されました。
デング熱は過去にも輸入症例として、空港検疫などで報告されていましたが、このようい突如渡航歴のない人からはじまったというのが70年ぶりという事になります。
デング熱は、38度~40度の高熱、頭痛、関節痛などの症状を伴い、治りかけになると発疹が広がっていきます。重症化すると消化器や鼻などから出血を伴う場合もあるようです。潜伏期間が1週間前後あるため、海外から戻ってきた際に空港の検疫を通過してしまう場合もあります。
当時、発生源は定かになっていないもの、発症の報告の1か月ほど前の7月終盤に多国籍の人たちによるイベントが開催されていたため、海外から来た人が蚊にさされてそこから広まったと考えられています。このようにデング熱に感染する主な原因として、ウイルスを保有するネッタイシマカやヒトスズシマカなどのやぶ蚊に刺されることでの感染が報告されています。
蚊媒介による感染症の懸念
このように蚊が媒介する感染症は他にも沢山あり、日本に生息しているヒトスジシマカや船舶、飛行機などの人の移動により日本に持ち込まれたとされたネッタイシマカなどがそのウイルスの媒介になっています。
これらやぶ蚊は以下のような感染症を媒介しています。
- デング熱
- チクングニア熱
- ジカウイルス感染症
日本では5月から11月にかけてやぶ蚊が活発に活動しています。代々木公園でのデング熱発症もやぶ蚊による感染拡大に繋がっていった事から気を付けていかなければなりません。
チクングニア熱
日本では2006年から輸入症例として確認されていて、2011年より感染症法における4類感染症に指定されています。重症化するリスクは低いものの、デング熱やジカウイルスと比べて関節痛が酷くなる傾向にあり、数週間から数か月その痛みが続く場合もあるようです。
ジカウイルス感染症
1947年にウガンダの「ジカ」でアカゲザルから発見された感染症です。近年南太平洋や中南米を中心に急激に流行地が拡大している感染症です。2013年ごろから日本でも報告されていて、海外旅行から帰ってきた際に国内で発症した輸入症例が数十件報告されています。ジカウイルスはデング熱のように発熱、頭痛、関節痛などを引き起こすも、重症化するケースが稀で、ほとんどの場合軽微な症状でおさまります。
ジカウイルスが気にされている理由
日本では輸入症例しかなく、重症化するケースが稀であるにも関わらず、ジカウイルスの感染拡大について懸念する専門家も多くいる理由として、海外からの労働者の流入や日本人に人気の海外旅行エリアでの流行などが挙げられています。
WHOが発表しているジカウイルスの国別分類はカテゴリー1からカテゴリー4までに分けられていて、1が最も危険度が高い。この中で、カテゴリー2に東南アジアのバングラデシュ、インド、インドネシア、モルディブ、ミャンマー、タイなどからは多くの労働者が日本に入ってきています。また西太平洋地域のカンボジア、フィジー、ラオス、マレーシア、パプアニューギニア、フィリピン、ベトナムなども同様で、同時に日本から近い事から人気の海外旅行スポットとも言えます。
妊婦中、妊活中は特に注意が必要
感染後の症状が軽いものの、妊娠中や妊娠の可能性がある場合にジカウイルスに感染すると、母体から胎児への経胎盤感染により小頭症などの先天異常をもたらす場合があるため、厚生労働省でも注意を呼び掛けています。
感染症法による指定感染症の分類(令和元年9月時点)
日本には1999年から「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」通称感染症法が定められていて、症状の重さや病原体の感染力により第一類~第五類までに分類されています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については、まだその正体が完全に分かっていない事から「指定感染症」という位置づけで取り扱われています。
1類感染症
エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱
2類感染症
急性灰白髄炎、結核、ジフテリア、重症急性呼吸器症候群(病原体がコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限る。)、中東呼吸器症候群(病原体がベータコロナウイルス属MERSコロナウイルスであるものに限る。)、鳥インフルエンザ(H5N1)、鳥インフルエンザ(H7N9)
3類感染症
コレラ、細菌性赤痢、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス、パラチフス
4類感染症
E型肝炎、ウエストナイル熱、A型肝炎、エキノコックス症、黄熱、オウム病、オムスク出血熱、回帰熱、キャサヌル森林病、Q熱、狂犬病、コクシジオイデス症、サル痘、ジカウイルス感染症、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、腎症候性出血熱、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、炭疽、チクングニア熱、つつが虫病、デング熱、東部ウマ脳炎、鳥インフルエンザ(H5N1及びH7N9H5N1を除く)、ニパウイルス感染症、日本紅斑熱、日本脳炎、ハンタウイルス肺症候群、Bウイルス病、鼻疽、ブルセラ病、ベネズエラウマ脳炎、ヘンドラウイルス感染症、発しんチフス、ボツリヌス症、マラリア、野兎病、ライム病、リッサウイルス感染症、リフトバレー熱、類鼻疽、レプトスピラ症、ロッキー山紅斑熱
5類感染症
アメーバ赤痢、クリプトスポリジウム症、後天性免疫不全症候群、性器クラミジア感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症、麻しん、ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く。)ジアルジア症、破傷風
感染症発生動向調査で次の感染症に備える
今、世界はインフラの整備が進み、グローバル化の観点からも国から国へとモノや人の往来が激しくなってきました。インターネットの普及により個人レベルでも地球の裏側にあるお店で簡単に注文ができ、そのモノが数日後には手元に届きます。船舶や飛行機の往来も激しくなり、だれでも気軽に海外旅行に行く事もできるようになっています。
このように激しいモノや人の往来により、ある地域で発症しそのエリアだけで広まっていた風土病のようなものも簡単に世界を駆け巡るようになりました。そしてその噂はSNSなどを通じて良くも悪くも簡単に情報が伝搬します。また人から人へと情報が伝搬されるときに、その情報は着色され、曲がった情報として伝わり、恐怖と不安が広がっていきます。
今後もこのような新たな感染症の登場は、現代のインフラによりパンデミックとなる可能性を秘めています。私たち人類がどのように感染症と対峙していくのか、これからの大きな課題の一つになるに違いありません。
国内で新型コロナウイルス感染症が広まっている傍らで、同時に他の感染症なども日々報告されています。今後も国立感染症研究所などが発表している感染症発生動向調査などに目を向けておく必要があるかもしれません。